最近自信を無くしつつある日本人にとって、まだ日本が世界に誇れるモノとは何でしょうか。 自動車やテレビなどの高品質な工業製品でしょうか? それともアニメや漫画などのエンターテイメントでしょうか? いやもっと古い茶道や能などの日本的な伝統文化や歴史でしょうか?
私はこう考えます。 こうしたモノづくりや文化・歴史づくりの基になっている日本人の「こころ」「魂」、すなわち日本人の精神性だと思います。 これこそが、今でも世界にもっとも誇れるものです。
例えば、他人や見ず知らずの人に対しての自然に出てくる心配りである「思いやりの心」、心から喜んでもらおうとする「おもてなしの心」、モノをいつまでも大切に使おうとする「もったいないの精神」、みんなが利用する場所は出来るだけ綺麗にしようとする「清潔心」や、また今回のような大きな災害や不幸があっても冷静にみんなで協力し合う「結び合う心」など、こうしたモノは日本人の誇るべき精神性です。
実は、こうした日本人の精神性を育んできた背景には、この日本列島の豊かな水と森に恵まれた自然と大きく関係しているのです。日本列島で現れる自然現象(四季の変化)や天災(地震・津波・台風・火山など)、すなわち自然の働きである森羅万象と共に生きることを誓った日本人の世界観・人生観が、長い時間をかけて日本人の精神性を作ってきたのです。
この日本人の精神性は、現代のモノづくり(自動車・テレビなど)やコトづくり(アニメ・漫画など)の中で、理想的なカタチに向かって諦めることなく真摯に誠心誠意努力し続けるカタチで生きています。
ただ戦後の日本人は、あまりにも経済的豊かさを追い求めるあまり、日本的なものへの関心が薄くなり、西洋的なものへ、特にアメリカへの従属的な考え方が中心となり、日本的な感じ方や見方は間違ったものとして否定されてきたように思います。
近年ようやく、日本のことを見直そうという風潮が高まってきました。一つには西欧的価値観で経済的な成長を実現してきたことが、必ずしも社会や個人がそれほど幸せを感じていない事にもあると思います。
東日本大震災では、大きな困難に中でも、驚くほどの冷静さを保ちつつ、礼節を忘れることなく、譲り合い、助け合いながら、自らの力で立ち上がろうとする被災地の方々の姿を見ることで、本来日本人が持っていた精神性と気質と生き方に気付いてきたからです。
日本人は長く自然の恵みや自然の脅威の中で自然との共生感情を育み、共同社会で他人を思いやる優しさや互いに助け合う気持ちを培ってきました。これが水と森の豊かな日本列島の中で時間をかけて作り出してきた日本人の精神性と気質と生き方です。
神社やお寺には、そうした日本人の精神性が行事や建物や空間として今も残っています。ただ何百年、一千年という時間の中で、文化的価値や歴史的価値や精神的価値は埃をかぶり、見向きされないものになってしまいました。
これからは、経済性や効率性を最大限に求める価値観から、地域の人々の絆が深まり地域の文化を誇りに思い、地域の産業を大切にする価値観(グローバリゼーションからローカライゼーション)に変わっていくと思います。
その中でも、地域ごとにある神社(仏閣)の文化的(祭りや行事・風習など)魅力、歴史的(地域の長い記憶)魅力と、そこに保持されてきた本来私たちが持っていた精神性や気質や生き方を再発見し、多くの方に知ってもらう活動をしていきたいと思います。また神社(仏閣)自らが新しい情報発信ツール・インターネットをうまく活用することで、地域の人々との絆と地域固有の文化(エスノローカル)の魅力を未来へ継承できる仕組みを作っていきたいと思います。
20120414
山本一男